方丈記(嵯峨本) 21

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/27
翻刻
なるひめ墻をかこひて園とす則
諸の薬草を栽たり假の菴のあり様
かくのことし其ところのさまを
いはゝみなみにかけ樋あり岩を
たゝみて水をためたり林軒近けれ
は妻木をひろふにともしからす
名を外山といふ正木のかつら隠を
埋めり谷しけゝれと西は晴たり
観念のたよりなきにしもあらす
春は藤波を見る紫雲のことくして
西のかたににほふ夏は時鳥を聞
かたらふことにしての山路を契る
秋は日くらしの聲耳にみてり
空蟬の世をかなしむと聞ゆ冬は
雪を憐むつもり消るさま罪障に
たとへつへし若念佛物うく讀経
まめならぬときはみつからやすみ
みつからをこたるにさまたくる

濁点・句読点付加
なるひめ墻をかこひて園とす。則
諸の薬草を栽たり。假の菴のあり様
かくのごとし。其ところのさまを
いはゞ、みなみにかけ樋あり。岩を
たゝみて水をためたり。林軒近けれ
ば、妻木をひろふにともしからず。
名を外山といふ。正木のかづら隠を
埋めり。谷しげゝれど、西は晴たり。
観念のたよりなきにしもあらず。
春は藤波を見る。紫雲のごとくして、
西のかたににほふ。夏は時鳥を聞。
かたらふごとに、しでの山路を契る。
秋は日ぐらしの聲耳にみてり。
空蟬の世をかなしむと聞ゆ。冬は
雪を憐む。つもり消るさま、罪障に
たとへつべし。若念佛物うく、讀経
まめならぬときは、みづからやすみ、
みづからをこたるに、さまたぐる