方丈記(嵯峨本) 30

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/36
翻刻
ふれて執心なかれと也今草の菴を
愛するも科とす閑寂に着するも
障なるへし如何々用なき楽みを
のへてむなしくあたら時を過さむ
しつかなる暁此ことはりをおもひ
つゝけてみつからこゝろにとひて
いはく世をのかれて山林にまし
はるは心をおさめて道を行はむ
為なりしかるを汝か姿は聖に似て
心はにこりにしめり住家は則
淨名居士の跡をけかせりといへ共
たもつ所はわつかに周梨槃特か
行にたにも及はす若是貧賤の
報のみつから悩ますか将又妄心の
至りてくるはせるか其時心さらに
こたふる事なし唯傍に舌根を
やとひて不請の念佛兩三反を申
てやみぬ時に建曆の二とせ弥生の

濁点・句読点付加
ふれて執心なかれと也。今草の菴を
愛するも科とす。閑寂に着するも
障なるべし。如何々用なき楽みを
のべて、むなしくあたら時を過さむ。
しづかなる暁、此ことはりをおもひ
つゞけて、みづからこゝろにとひて
いはく、世をのがれて山林にまじ
はるは、心をおさめて道を行はむ
為なり。しかるを汝が姿は聖に似て、
心はにごりにしめり、住家は則
淨名居士の跡をけがせりといへ共、
たもつ所はわづかに周梨槃特が
行にだにも及はず。若是貧賤の
報のみづから悩ますか、将又妄心の
至りてくるはせるか。其時、心さらに
こたふる事なし。唯傍に舌根を
やとひて、不請の念佛兩三反を申
てやみぬ。時に建曆の二とせ、弥生の