方丈記(嵯峨本) 19

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/25
翻刻
空敷大原山の雲にいくそはくの春
秋をか経ぬる爰に六十の露消方に
及て更に末葉のやとりを結へる事
ありいはゝ狩人の一夜の宿を作り
老たるかいこのまゆをいとなむか
ことし是を中比の住家になすらふ
れは又百分か一にたにも及はす
とかくいふ程に齢は年々にかた
ふき栖は折々にせはし其家の有様
よのつねならすひろさはわつかに
方丈高さは七尺かうち也所を思ひ
定めさるか故に地をしめて作らす
土居をくみ打おほひをふきてつきめ
ことにかけかねをかけたり若心に
叶はぬ事あらは安く外に移さむか
為也其改め造る時いくはくの煩か
あるつむ所わつかにニ兩也車の
力をむくふる外は更に用途いらす

濁点・句読点付加
空敷大原山の雲に、いくそばくの春
秋をか経ぬる。爰に六十の露消方に
及て、更に末葉のやどりを結べる事
あり。いはゞ狩人の一夜の宿を作り、
老たるかいこのまゆをいとなむが
ごとし。是を中比の住家になずらふ
れば、又百分が一にだにも及ばず。
とかくいふ程に、齢は年々にかた
ぶき、栖は折々にせばし。其家の有様
よのつねならず。ひろさはわづかに
方丈、高さは七尺がうち也。所を思ひ
定めざるが故に、地をしめて作らず。
土居をくみ、打おほひをふきて、つぎめ
ごとにかけがねをかけたり。若心に
叶はぬ事あらば、安く外に移さむが
為也。其改め造る時、いくばくの煩か
ある。つむ所わづかにニ兩也。車の
力をむくふる外は、更に用途いらず。