方丈記(嵯峨本) 20

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/26
翻刻
今日野山の奧に隠をかくして南に
假の日かくしをさし出して竹の
すのこをしき其西に閼伽棚を作り
中には西の垣に添て阿弥陀の畫像
を安置し奉りて落日を請て眉間の
光とす彼帳のとひらに普賢並に
不動の像をかけたり北の障子の上
にちいさきたなをかまへてくろき
皮籠三四合を置すなはち和哥管弦
徃生要集こときの抄物をいれたり
傍に筝琵琶をの〳〵一張をたつ
いはゆるおりことつき琵琶これ也
東にそへてわらひのほとろをしき
つかなみを敷て夜の床とす東の
墻に窓をあけて爰にふつくゑを
作りいたせり枕のかたにすひつ
あり是を柴折くふるよすかとす
菴の北に少地をしめあはらなる

濁点・句読点付加
今、日野山の奧に隠をかくして、南に
假の日がくしをさし出して、竹の
すのこをしき、其西に閼伽棚を作り、
中には西の垣に添て阿弥陀の畫像
を安置し奉りて、落日を請て眉間の
光とす。彼帳のとびらに、普賢並に
不動の像をかけたり。北の障子の上
に、ちいさきたなをかまへて、くろき
皮籠三四合を置。すなはち和哥、管弦、
徃生要集ごときの抄物をいれたり。
傍に筝、琵琶、をの〳〵一張をたつ。
いはゆるおりごと、つぎ琵琶これ也。
東にそへて、わらびのほどろをしき、
つかなみを敷て夜の床とす。東の
墻に窓をあけて、爰にふづくゑを
作りいだせり。枕のかたにすびつ
あり。是を柴折くぶるよすがとす。
菴の北に少地をしめ、あばらなる