方丈記(嵯峨本) 12

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/18
翻刻
哀なる事侍りきさりかたき女男
なと持たる者は其心さしまさりて
ふかきはかならす死す其故は我身
をは次になして男にもあれ女にも
あれいたはしく思ふ方にたま〳〵
乞えたる物を先ゆつるによりて也
されは父子ある者は定まれる事
にて親そさき立て死にける父母か
命尽てふせるをしらすしていとけ
なき子のその乳房にすひつきつゝ
ふせるなとも在けり仁和寺に隆曉
法印といふ人かくしつゝかす
しらす死ぬる事を悲みて聖を餘多
かたらひつゝ其死首の見ゆる毎に
阿字を書て縁に結はしむるわさを
なむせられける其数をしらむとて
四五兩月かほとかそへたりけれは
京の中一条より南九條より北京極

濁点・句読点付加
哀なる事侍りき。さりがたき女男
など持たる者は其心さしまさりて、
ふかきはかならず死す。其故は我身
をば次になして、男にもあれ女にも
あれ、いたはしく思ふ方に、たま〳〵
乞えたる物を、先ゆづるによりて也。
されば父子ある者は定まれる事
にて、親ぞさき立て死にける。父母が
命尽てふせるをしらずして、いとけ
なき子の、その乳房にすひつきつゝ、
ふせるなども在けり。仁和寺に隆曉
法印といふ人、かくしつゝかず
しらず死ぬる事を悲みて、聖を餘多
かたらひつゝ、其死首の見ゆる毎に
阿字を書て、縁に結ばしむるわざを
なむせられける。其数をしらむとて
四五兩月がほどかぞへたりければ、
京の中一条より南、九條より北京極