方丈記(嵯峨本) 23

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/29
翻刻
つれ〳〵なる時は是を友として
あそひありくかれは十六歳われは
むそち其齢事の外なれとこころを
慰むる事これ同し或はつ花を
ぬき岩なしをとる又ぬかこをもり
芹をつむ或はすそ川の田井に
至て落穗をひろひてほくみを作る
若日うらゝかなれは嶺によち上り
てはるかに故郷の空を望み木幡山
伏見の里鳥羽々束師をみる勝地は
ぬしなけれはこゝろを慰さむるに
障りなしあゆみ煩なく志遠く至る
ときは是より峯つゝきすみ山を越
笠取を過て岩間にまうて石山を
おかむもしは又粟津の原を分て
蝉丸翁か跡をとふらひ田上川を渡て
猿丸大夫か墓をたつぬ帰さまには
節につけつゝ桜をかり紅葉をもとめ

濁点・句読点付加
つれ〴〵なる時は、是を友として
あそびありく。かれは十六歳、われは
むそぢ、其齢事の外なれど、こころを
慰むる事、これ同じ。或はつ花を
ぬき、岩なしをとる。又ぬかごをもり、
芹をつむ。或はすそ川の田井に
至て、落穗をひろひてほぐみを作る。
若日うらゝかなれば、嶺によぢ上り
て、はるかに故郷の空を望み、木幡山,
伏見の里,鳥羽,々束師をみる。勝地は
ぬしなければ、こゝろを慰さむるに
障りなし。あゆみ煩なく、志遠く至る
ときは、是より峯つゞき、すみ山を越、
笠取を過て、岩間にまうで、石山を
おがむ。もしは又粟津の原を分て、
蝉丸翁が跡をとぶらひ、田上川を渡て、
猿丸大夫が墓をたづぬ。帰さまには、
節につけつゝ、桜をかり、紅葉をもとめ、