方丈記(嵯峨本) 22

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/28
翻刻
人もなく又耻へき友もなし殊更に
無言をせされとも獨をれは口業を
おさめつへしかならす禁戒を守る
としもなけれとも境界なけれは何
に付てかやふらむ若隠の白浪に
身をよする朝には岡の屋に行
かふ舩をなかめて満沙弥か風情を
ぬすみもし桂の風はちをならす夕
には潯陽の江を想像て源都督の
なかれをならふ若あまり興あれは
しは〳〵松のひゝき秋風の楽をたくへ
水の音に流泉の曲をあやつる藝は
是つたなけれは人の耳を悅はし
めむとにもあらすひとりしらへ獨
詠してみつからこころをやしなふ
斗也又麓に一の柴の菴あり則
此山守か居るところ也かしこに
小童あり時々來て相とふらふもし

濁点・句読点付加
人もなく、又耻べき友もなし。殊更に
無言をせざれども、獨をれば口業を
おさめつべし。かならず禁戒を守る
としもなけれども、境界なければ、何
に付てかやぶらむ。若隠の白浪に
身をよする朝には、岡の屋に行
かふ舩をながめて、満沙弥が風情を
ぬすみ、もし桂の風、ばちをならす夕
には、潯陽の江を想像て、源都督の
ながれをならふ。若あまり興あれば、
しば〳〵松のひゞき秋風の楽をたぐへ、
水の音に流泉の曲をあやつる。藝は
是つたなければ、人の耳を悅ばし
めむとにもあらず。ひとりしらべ、獨
詠じて、みづからこころをやしなふ
斗也。又、麓に一の柴の菴あり。則
此山守が居るところ也。かしこに
小童あり。時々來て相とぶらふ。もし