方丈記(嵯峨本) 24

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/30
翻刻
蕨を折木の実をひろひて且は仏に
たてまつり且は家つとにすもし
夜しつかなれは窓の月に古人を
しのひ猿の聲に袖をうるほす草
むらの蛍は遠く真木の嶋のかゝり
火にまかひ暁の雨はをのつから
木葉吹嵐に似たり山鳥のほろ〳〵
と鳴をきゝて父か母かとうたかひ
みねのかせきの近くなれたるに
つけても世にとをさかる程をしる
或は埋火をかきをこして老の寝覚
の友とすおそろしき山ならねと
ふくろうの聲をあはれふに付ても
山中の景気折につけても尽る事
なしいはむや深くおもひふかく
しれ覧人のためには是にしも
限るへからす大かた此ところに
住初し時は白地と思ひしかと

濁点・句読点付加
蕨を折、木の実をひろひて、且は仏に
たてまつり、且は家づとにす。もし
夜しづかなれば、窓の月に古人を
しのび、猿の聲に袖をうるほす。草
むらの蛍は遠く真木の嶋のかゞり
火にまがひ、暁の雨は、をのづから
木葉吹嵐に似たり。山鳥のほろ〳〵
と鳴をきゝて、父か母かとうたがひ、
みねのかせぎの近くなれたるに
つけても、世にとをざかる程をしる。
或は埋火をかきをこして、老の寝覚
の友とす。おそろしき山ならねど、
ふくろうの聲をあはれふに付ても、
山中の景気、折につけても尽る事
なし。いはむや深くおもひ、ふかく
しれ覧人のためには、是にしも
限るべからず。大かた、此ところに
住初し時は、白地と思ひしかど、