方丈記(嵯峨本) 5

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/11
翻刻
又門のうへを吹はなちて四五町か
ほとに置また墻をふきはらひて
となりとひとつになせりいはむや
家のうちのたから数をつくして
空にあかり檜皮ふき板の類ひ冬の
木の葉の風に乱るゝかことし
塵を煙のことくふきたてたれは
すへて目も見えすをひたゝしく
なりとよむ音に物いふ聲も聞えす
地獄の業風なり共かくこそはとそ
覚えける家の損亡するのみならす
是を取つくらふ間に身をそこなひ
かたわつける者かすをしらす此風
ひつしさるの方に移り行て
多くの人の歎をなせり辻風はつね
に吹物なれとかゝる事やは
あるたゝ事にあらすさるへき者の
さとしかなとそうたかひ侍りし

濁点・句読点付加
又門のうへを吹はなちて四五町が
ほどに置、また墻をふきはらひて
となりとひとつになせり。いはむや、
家のうちのたから、数をつくして
空にあがり、檜皮、ふき板の類ひ、冬の
木の葉の風に乱るゝがごとし。
塵を煙のごとくふきたてたれば、
すべて目も見えず。をびたゞしく
なりどよむ音に、物いふ聲も聞えず。
地獄の業風なり共、かくこそはとぞ
覚えける。家の損亡するのみならず
是を取つくらふ間に、身をそこなひ、
かたわづける者、かずをしらず。此風
ひつじさるの方に移り行て、
多くの人の歎をなせり。辻風はつね
に吹物なれどかゝる事やは
ある。たゞ事にあらず、さるべき者の
さとしかなとぞうたがひ侍りし。