方丈記(嵯峨本) 6

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/12
翻刻
又おなし年の水無月のころ俄に
都遷り侍りきいと思ひの外成し
事也大かた此京の始を聞は嵯峨
天皇の御時都と定まりにける
より後すてに数百歳を経たりこと
なくてたやすくあらたまるへくも
あらねは是を世の人たやすからす
愁あへるさまことはりにも過たり
されととかくいふかひなくて御門
より始め奉て大臣公卿こと〳〵く
うつり給ひぬ世につかふる程の人
誰か獨故郷に殘らむ官位に思ひを
かけ主君の影を頼ほとの人は一日
成ともとく移らむとはけみあへり
時をうしなひ世にあまされて
期する所なき者は愁なからとまり
をり軒をあらそひし人の住ゐ日を
経つゝ荒行家はこほたれて淀川に

濁点・句読点付加
又おなじ年の水無月のころ、俄に
都遷り侍りき、いと思ひの外成し
事也。大かた此京の始を聞ば、嵯峨
天皇の御時、都と定まりにける
より後、すでに数百歳を経たり。こと
なくて、たやすくあらたまるべくも
あらねば、是を世の人たやすからず
愁あへるさま、ことはりにも過たり。
されどとかくいふかひなくて、御門
より始め奉て、大臣公卿こと〴〵く
うつり給ひぬ。世につかふる程の人、
誰か獨故郷に殘らむ。官位に思ひを
かけ、主君の影を頼ほどの人は、一日
成ともとく移らむとはげみあへり。
時をうしなひ世にあまされて、
期する所なき者は、愁ながらとまり
をり。軒をあらそひし人の住ゐ、日を
経つゝ荒行。家はこぼたれて淀川に、