方丈記(嵯峨本) 14

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/20
翻刻
或はくつれ或はたふれたるあひた
塵灰立上りて盛なる煙のことし
地の震き家のやふるゝ音いかつち
にことならす家の中にをれは忽に
打ひしけなむとすはしり出れは
又地われさく羽なけれはそらへも
あかるへからす龍ならねは雲に
のほらむ事難しをそれの中に
恐るへかりけるはたゝ地震成けり
とそ覚侍りし其中にある武者の
ひとり子の六七はかりに侍りしか
ついひちのおほひの下に小家を作て
墓なけなる跡なし事をしてあそひ
侍りしか俄にくつれうめられて
隠かたなく平に打ひさかれて二の
目なと一寸斗うち出されたるを父
母かゝへて聲をおしますかなしみ
あひて侍りしこそ哀に悲しく

濁点・句読点付加
或はくづれ或はたふれたるあひだ、
塵灰立上りて盛なる煙のごとし。
地の震き、家のやぶるゝ音、いかづち
にことならず。家の中にをれば忽に
打ひしげなむとす。はしり出れば
又地われさく。羽なければ、そらへも
あがるべからず。龍ならねば、雲に
のぼらむ事難し。をそれの中に
恐るべかりけるは、たゝ地震成けり
とぞ覚侍りし。其中にある武者の
ひとり子の六七ばかりに侍りしが、
ついひぢのおほひの下に小家を作て、
墓なげなる跡なし事をして、あそび
侍りしが、俄にくづれうめられて
隠かたなく平に打ひさがれて、二の
目など一寸斗うち出されたるを、父
母かゝへて聲をおしまず、かなしみ
あひて侍りしこそ哀に悲しく