方丈記(嵯峨本) 17

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/23
翻刻
気色を聞にも心念々にうこきて
ときとしてやすからすもしせはき
地に居れは近く炎上する時其害を
のかるゝ事なしもし邊地に
あれは徃反わつらひおほく盜賊の
難はなれかたしいきほひ有者は
貪欲ふかくひとり身なる者は人に
かるしめらる寶あれはおそれ多く
貧しけれは歎切也人を頼めは身
他のやつことなり人をはこくめは
心恩愛につかはる世にしたかへは
身くるし又したかはねは狂へるに
似たりいつれの所をしめいかなる
わさをしてかしはしも此身を宿し
玉ゆらもこころを慰むへきわか身
父方の祖母の家を傳へて久しく
彼所に住其後緣かけ身おとろへて
しのふかた〳〵しけかりしかは

濁点・句読点付加
気色を聞にも、心念々にうごきて、
ときとしてやすからず。もしせばき
地に居れば、近く炎上する時、其害を
のがるゝ事なし。もし邊地に
あれば、徃反わづらひおほく、盜賊の
難はなれがたし。いきほひ有者は
貪欲ふかく、ひとり身なる者は人に
かるしめらる。寶あればおそれ多く、
貧しければ歎切也。人を頼めば、身
他のやつことなり、人をはごくめば、
心恩愛につかはる。世にしたがへば、
身くるし。又したがはねば、狂へるに
似たり。いづれの所をしめ、いかなる
わざをしてか、しばしも此身を宿し、
玉ゆらもこころを慰むべき。わが身、
父方の祖母の家を傳へて、久しく
彼所に住。其後緣かけ身おとろへて、
しのぶかた〴〵しげかりしかば、