方丈記(嵯峨本) 16

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/22
翻刻
うすらくかと見し程に月日
重なり年越しかは後は言の葉に
かけていひ出る人たになしすへて
世のありにくき事我身と栖との
墓なくあたなる様かくのことし
況や所により身のほとにしたかひ
て心をなやます事あけてかそふ
へからすもしをのつから身叶はす
して権門の傍に居る者はふかく
悦ふ事あれとも大に楽しふに
あたはす歎ある時も聲をあけて
泣事なし進退安からす立居に付て
恐れをのゝくたとへは雀の鷹の巢
に近つけるかことしもし貧敷
して富る家の隣にをる者は朝夕
すほき姿を耻てへつらひつゝ出入
妻子僮僕のうらやめるさまをみる
にも富る家の人のないかしろなる

濁点・句読点付加
うすらぐかと見し程に、月日
重なり、年越しかば後は、言の葉に
かけていひ出る人だになし。すべて
世のありにくき事、我身と栖との
墓なくあだなる様、かくのごとし。
況や、所により、身のほどにしたがひ
て、心をなやます事、あげてかぞふ
べからず。もしをのづから身叶はず
して、権門の傍に居る者は、ふかく
悦ぶ事あれども、大に楽しぶに
あたはず。歎ある時も、聲をあげて
泣事なし、進退安からず、立居に付て
恐れをのゝく。たとへば、雀の鷹の巢
に近づけるかごとし。もし貧敷
して富る家の隣にをる者は、朝夕
すぼき姿を耻て、へつらひつゝ出入。
妻子僮僕のうらやめるさまをみる
にも、富る家の人のないがしろなる