方丈記(嵯峨本) 27

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/33
翻刻
更にはこくみあはれふといへとも
やすく閑なるをは願はす唯我身を
やつことするにはしかすもし
すへき事あれは則をのつから
身をつかふたゆからすしもあら
ねと人をしたかへ人をかへりみる
よりはやすし若ありくへき事
あれはみつからあゆむくるしと
いへとも馬鞍牛車とこゝろ
なやますには似す今一身を分ちて
二の用をなす手のやつこ足の乗物
よく我心にかなへりこゝろ又身
のくるしみをしれはくるしむ
時はやすめつまめなる時はつかふ
つかふとても度々過さす物うし
とても心をうこかす事なしいかに
况やつねにありき常に動は是養生
成へしなむそいたつらにやすみ

濁点・句読点付加
更にはごくみあはれぶといへども、
やすく閑なるをば願はず。唯我身を
やつことするにはしかず。もし
すべき事あれば、則をのづから
身をつかふ。たゆからずしもあら
ねど、人をしたがへ、人をかへりみる
よりはやすし。若ありくべき事
あれば、みづからあゆむ。くるしと
いへども、馬鞍牛車とこゝろ
なやますには似ず。今一身を分ちて、
二の用をなす。手のやつこ、足の乗物、
よく我心にかなへり。こゝろ又身
のくるしみをしれば、くるしむ
時はやすめつ、まめなる時はつかふ。
つかふとても度々過さず、物うし
とても心をうごかす事なし。いかに
况や、つねにありき、常に動は、是養生
成べし。なむぞいたづらにやすみ