方丈記(嵯峨本) 28

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/34
翻刻
をらむ人をくるしめ人を悩ますは
又罪業也如何々他の力をかるへき
衣食のたくひ又おなし藤の衣麻の
ふすまうるにしたかひてはたへを
かくし野邊のつはな峯の木の実
命をつく斗也人にましはらされは
姿を耻る悔もなしかてともし
けれはをろそかなれともなを味を
あまくすすへてかやうの事たの
しく富る人に對していふには
あらす唯我身一にとりて昔と
今とをたくらふるなり大かた世を
遁れ身を捨しよりうらみもなく
おそれもなし命は天運にまかせて
おしますいとはす身をは浮雲
なすらへて頼ますまたしとせす
一期のたのしひはうたゝねの枕の
上にきはまり生涯の海は折々の

濁点・句読点付加
をらむ。人をくるしめ人を悩ますは、
又罪業也。如何々他の力をかるべき。
衣食のたぐひ又おなじ。藤の衣、麻の
ふすま、うるにしたがひてはだへを
かくし、野邊のつばな、峯の木の実、
命をつぐ斗也。人にまじはらざれば、
姿を耻る悔もなし。かてともし
ければ、をろそかなれども、なを味を
あまくす。すべてかやうの事、たの
しく富る人に對していふには
あらず。唯我身一にとりて、昔と
今とをたくらぶるなり。大かた世を
遁れ、身を捨しより、うらみもなく
おそれもなし。命は天運にまかせて、
おしまず、いとはず。身をは浮雲
なずらへて、頼まず、まだしとせず。
一期のたのしびは、うたゝねの枕の
上にきはまり、生涯の海は折々の