方丈記(嵯峨本) 15

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/21
翻刻
見侍りしか子のかなしみには
たけき者も耻を忘れけりと覚えて
いとおしく理かなとそ見侍りし
かくをひたゝ敷ふる事はしはし
にてやみにしか其名殘しは〳〵
絶すよのつねに驚くほとの地震
二三十度ふらぬ日はなし十日廿日
過にしかはやう〳〵まとをに
なりて或は四五度二三度もしは
一日ませ二三日に一度なと大かた
其名殘三月斗や侍りけむ四大種の
中に水火風はつねに害をなせと
大地に至りては殊なる變をなさす
昔齊衡のころかとよ大地震ふりて
東大寺の佛のみくし落なとして
いみしき事とも侍りけれと猶此度
にはしかすとそ則人みなあちき
なき事を述ていさゝか心の濁も

濁点・句読点付加
見侍りしか。子のかなしみには、
たけき者も耻を忘れけりと覚えて、
いとおしく理かなとぞ見侍りし。
かくをびたゞ敷ふる事は、しばし
にてやみにしが、其名殘しば〳〵
絶ず。よのつねに驚くほどの地震
二三十度ふらぬ日はなし。十日廿日
過にしかば、やう〳〵まどをに
なりて、或は四五度二三度、もしは
一日まぜ、二三日に一度など、大かた
其名殘、三月斗や侍りけむ。四大種の
中に水火風はつねに害をなせど、
大地に至りては殊なる變をなさず。
昔齊衡のころかとよ、大地震ふりて、
東大寺の佛のみぐし落などして、
いみじき事ども侍りけれど、猶此度
にはしかずとぞ。則、人みなあぢき
なき事を述て、いさゝか心の濁も