方丈記(嵯峨本) 10

方丈記 | 日本古典籍データセットから

方丈記/16
翻刻
なけれはさのみやはみさほも作り
あへむ念し詫つゝの寶物かたはし
よりすつることくすれ共更に目見
たつる人なしたま〳〵かふる物は
金を輕くし粟を重くす乞食道の
邊に多く愁へ悲しふ聲耳に
みてり先の年かくのことくからく
して暮れぬ明る年は立ちなをるへき
かと思ふにあまさへゑやみ打
そひてまさる様に跡かたなし世の
人みな飢死けれは日を遍つゝきは
まり行さま少水の魚のたとへに
叶へりはてには笠うちき足ひき
つゝみよろしき姿したる者ひた
すら家毎に乞ありくかくわひしれ
たる者ともありくかと見れは則
たふれ死ぬついひちのつら路頭に
飢死ぬる類ひは数しらすとり捨る

濁点・句読点付加
なければ、さのみやはみさほも作り
あへむ。念じ詫つゝ寶物かたはし
よりすつるごとくすれ共、更に目見
たつる人なし。たま〳〵かふる物は、
金を輕くし、粟を重くす。乞食道の
邊に多く、愁へ悲しぶ聲、耳に
みてり。先の年、かくのごとく、からく
して暮れぬ。明る年は立ちなをるべき
かと思ふに、あまさへゑやみ打
そひて、まさる様に跡かたなし。世の
人みな飢死ければ、日を遍つゝきは
まり行さま、少水の魚のたとへに
叶へり。はてには笠うちき足ひき
つゝみ、よろしき姿したる者ひた
すら家毎に乞ありく。かくわびしれ
たる者ども、ありくかと見れば、則
たふれ死ぬ。ついひぢのつら、路頭に
飢死ぬる類ひは数しらず。とり捨る